コラム — 親の防災 公開: 2026/07/20

高齢の親が避難を嫌がる理由と、
けんかにならない伝え方「大丈夫だから」の裏にある心理を知れば、伝え方が変わる

台風のニュースを見て実家に電話をかける。「危ないから避難してね」——「大丈夫、大丈夫。今までも何ともなかったから」。 のんびりした声にイラッとして、つい強い言葉になり、けんかで終わる。多くの家族が経験しておるじゃろう。 まず知ってほしいのは、親が避難を嫌がるのはわがままでも頑固でもなく、人間なら誰でも持つ心のクセだということじゃ。 クセの正体が分かれば、伝え方は変えられる。この記事では、嫌がる4つの心理と、けんかにならない言いかえ、 そして一番効く「事前の約束」の作り方を紹介するぞ。

親が避難を嫌がる4つの心理

「うちの親は頑固だから」で片付けてしまうと、打つ手がなくなる。 実際には、避難を嫌がる理由はだいたいこの4つに整理できるんじゃ。

① 「今まで大丈夫だったから」

これは正常性バイアスと呼ばれる、危険を「自分は例外」と思い込む心のクセじゃ。歳のせいではなく、若い人も含めて人間全員が持っておる。長く生きて「何ともなかった経験」が多い分、親世代はこのクセが強く出るだけなんじゃよ

② 家とペットを置いていけない

何十年も守ってきた家、かわいがっている猫や犬。「置いて自分だけ逃げるなんて」という気持ちは、責められるものではないのう。この気持ちを無視した説得は、まず通らん

③ 迷惑をかけたくない

「避難所で人様の世話になるなんて」「騒ぎにして、何もなかったら恥ずかしい」という遠慮。親世代ほど、この気持ちが強い

④ 体力とトイレの不安

避難所までの移動がつらい、雑魚寝ができない、夜のトイレが心配——体の不安から「家にいた方が安全」に思えてしまう。これは実は合理的な心配で、だからこそ後で紹介する「避難所以外の逃げ先」が効くんじゃ

図解: 心理と言いかえの早見表

この記事の要点を1枚にまとめた。保存して、兄弟姉妹のグループLINEで共有してもらってもええぞ。

親が避難を嫌がる4つの心理とけんかにならない言いかえの図解。心理: ①今まで大丈夫だったという正常性バイアス ②家とペットを置いていけない ③迷惑をかけたくない ④体力とトイレの不安。言いかえ: 「死にたいの?」→「連絡が取れないと私が心配で眠れない」、正論の説教→「明るいうちに◯◯さんちに行っておこう」と段取りで誘う、「とにかく避難所に行って」→「猫を頼めるのはお母さんだけ」と役割をお願いする。一番効くのは警戒レベル3が出たら動くという事前の約束

言ってはいけない3つの言葉

心配のあまり口をついて出る言葉ほど、逆効果になりやすい。代表的なNGはこの3つじゃ。

脅す — 「死にたいの?」

恐怖で人は動かん。むしろ「縁起でもない」と心を閉ざしてしまう。不安を煽られると、人はかえって「大丈夫」と言い張って自分を守ろうとするんじゃ

命令する — 「いいから逃げて!」

子どもに命令されることは、親にとって立場が逆転したようで面白くないもの。反発だけが残る

正論で説教する — 「なんでわからないの?」

正しさで人は動かん。理屈では親も「避難した方がいい」と分かっておる。分かっていても動けないのが心のクセなんじゃから、正論を重ねるほど話がこじれる

けんかにならない伝え方4つ

コツはひとつ。「あなたが危ない」ではなく「私が心配」を主語にすることじゃ。

晴れた日の縁側で、そなえじぃが湯のみを片手にスマホで楽しそうに話している。ひなたちゃんは膝の上で丸くなっている
① 「私」を主語にする

「連絡が取れないと、私が心配で眠れないの」。自分の身は「大丈夫」と言える親も、子や孫の気持ちは無下にできん。一番の急所じゃよ

② 段取りで誘う

「避難して」ではなく「明るいうちに、◯◯さんの家に行っておこう」。行き先と時間が具体的だと、人は動きやすい。「ついでに孫の顔を見せる」など、避難以外の理由を添えるのも上手いやり方じゃ

③ 役割をお願いする

「猫を安全なところに連れて行けるのは、お母さんだけなの」。守られる側ではなく守る側の役割を渡すと、③の「迷惑をかけたくない」心理がそのまま動く力に変わる

④ 逃げ先を避難所に限定しない

④の体の不安には、避難所以外の選択肢で応える。親戚の家・友人宅・少し高台のホテル——「早めに移動して、ゆっくり泊まってくる」なら抵抗はぐっと下がる。安全な場所に移ることはすべて立派な避難じゃ

そなえじぃ

わしら親の世代はな、「子どもに心配をかけるのが一番つらい」んじゃ。 じゃから「あなたのため」と言われるより、「私のために逃げて」と言われた方が、よっぽど胸に響くんじゃよ。

一番効くのは「警戒レベル3の約束」

そして一番大事なことを言うぞ。説得は、災害が迫ってからでは間に合わん。 効くのは、天気のいい日の穏やかな電話で交わしておく「事前の約束」じゃ。

約束はシンプルでいい。「テレビやスマホで警戒レベル3(高齢者等避難)が出たら、◯◯へ移動する」。 警戒レベル3は、まさに高齢の方が避難を始めるために作られた合図じゃ。 「まだ大丈夫そうでも、レベル3が出たら動くと決めたじゃろ」——判断を本人の気分ではなく、 あらかじめ決めたルールに預けてしまう。これが正常性バイアスへの一番の対抗策なんじゃよ。

雨のニュースが映るテレビの前で、そなえじぃがオレンジ色の避難リュックを背負っている。そばのペット用キャリーには、ひなたちゃんが自分からちょこんと入っている

あわせて、市区町村の避難行動要支援者名簿(避難に手助けが要る方の登録制度)や、 民生委員さん・お隣さんへの「何かあったら声をかけてやってください」というお願いも、平時にしておくと安心が重なる。 この「決めごと」は、緊急連絡カード(無料PDF)に書き込んで冷蔵庫に貼っておいてくれ。 連絡手段の決め方は安否確認3つのルールの記事に詳しく書いたぞ。

明るい空の下、避難リュックを背負ったそなえじぃがひなたちゃん入りのキャリーを提げて玄関を出ていく後ろ姿。ひなたちゃんはキャリーの窓から顔をのぞかせている

よくある質問

Q. 警戒レベル3とは何ですか?

A. 自治体が出す避難情報の段階のひとつで、正式には「高齢者等避難」というんじゃ。高齢の方や避難に時間のかかる方が危険な場所から避難を始める合図。レベル4「避難指示」では全員避難になるから、高齢の親には「レベル3で動く」を合言葉にするとよいぞ。

Q. 何度言っても避難してくれません

A. 迫ってからの説得はプロでも難しい。じゃから平時の会話で「レベル3が出たら◯◯へ」という約束を作ることに力を注ぐんじゃ。あわせて、要支援者名簿への登録や民生委員さんへの声かけなど、家族以外の力も平時に仕込んでおく。ひとりで抱え込まんことじゃ。

Q. 「ペットがいるから避難しない」と言われたら?

A. 自治体の避難所が同行避難に対応しているか先に調べ、キャリーに慣れさせる練習をしておく。そのうえで、ペットと一緒に身を寄せられる親戚宅やペット可の宿を「第二の逃げ先」に決めておくとええ。連れて逃げる段取りが決まれば、抵抗はぐっと下がるんじゃよ。